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【自儘な自論 3】
 論語的カメラマン心得「マンホールの蓋を踏むんじゃねーっ!」

論語は孔子が執筆したものではなく、孔子の弟子たちが孔子との対話の中で学んだ事柄を書き綴ったものだそうです。
ですので、師匠から学んだカメラマン心得を弟子であるボクが書き綴りますので、「論語的」としました。

今回は、「マンホールの蓋を踏むんじゃねーっ!」です。
この言葉は、師匠のアシスタントとしてカナダのバンクーバーへロケに行ったときに出たものです。
バンクーバーは、樹や花が多く全体が公園のような美しい街です。
そんな素敵な街でロケをするにあたり、師匠、デザイナーさん、カナダに永住した日本人コーディネーター、カナダ人のドライバー、そしてボクの5人でロケハンや機材準備をしていました。
ロケハンも終わり、明日から撮影本番という日の夕方、夕ご飯を食べようと駐車場からレストランに向かい、このときには、ちょっと英語で会話ができましたのでカナダ人ドライバーと日本語訛りの英語で話しながら、師匠たちの少し先を歩いていました。

そうしたら・・・・
「長谷川っ! マンホールの蓋を踏むんじゃねーよっ!!」って、でっかい声で師匠が叫びました。
ボクたちのまわりを歩くカナダ人たちも立ち止まって振り返りますし、師匠たちとすれ違ったばかりのカナダ人たちも立ち止まっています。
日本語ですのでカナダ人たちには何を言っているのかわからないのでしょうが、「怒っている」ということは言外に明らかです。



さっきも書きましたが、バンクーバーは全体が公園のような美しい街です。
そんな街中に、「マンホールの蓋を踏むんじゃねーよっ!!」って声がこだましました。
もしかしたら、これは「バンクーバーの歴史の中に残るような事件なんじゃないか」ってくらいの声の大きさです。

カナダ人ドライバーと話していたのに、一転して師匠の説教を聴きながら歩くことになりました。
「お前は、ここにいる理由を考えているのか」

「バンクーバーに来ているのは、観光なんかじゃない」

「俺やお前の飛行機代や宿泊費はクライアントが出している

「クライアントが旅費を出しているのは、俺やお前に観光を楽しんでほしいんじゃなくて、クライアントの商品の広告写真を撮影するためにお金を出してくれているんだ」

「ということは、クライアントやデザイナーが狙いとする写真をきちんと撮影して帰ることが俺の仕事であり、俺の撮影を手伝うことがお前の仕事なんだ

と、レストランへ向かいながらの説教です。



そして、なぜ、それが「マンホールの蓋を踏むんじゃねーっ!」になるのかといえば、「明日から撮影だというのに、もしマンホールの蓋が壊れていて、落ちて怪我をしたら撮影どころじゃなくなるだろう」ということなのです。

う〜む。
マンホールの蓋って、そう簡単に壊れるもんじゃないと思うし、もし壊れていたらボクの前を歩く人が落ちていると思うし、たとえマンホールの蓋が壊れていたとしても街中で大声で怒られることじゃないと思うんです。
当時は若かったですから、反省する素振りをしていましたが、心底怒りまくりというか、完全にブンむくれていました。



でも、カメラマンになった今、「マンホールの蓋を踏むんじゃねーっよ! 明日から撮影だというのに、マンホールの蓋が壊れていて、落ちて怪我をしたら撮影どころじゃなくなるだろう」という意味は、心底わかります。
今で言うところのリスク管理とでも言うのでしょか。
撮影にあたっては、カメラや機材をしっかり準備する以外に、差し障りになることは避けなけらばならないということです。
なぜなら、もし事故などで、予定する時間の、予定する場所に行かなければ撮影ができないからです。
そして、撮影ができなければ、クライアントが望むとおりの広告を完成することができず、大きな損害になっていくということです。



ですので、たとえば、車に機材を積んで行くロケ撮影でも、事故を起こさないように運転することはもちろんですが、「事故をもらわない」ということにも気を配らなければなりません。
追突されるとかの「もらい事故」でも警察の現場検証を受けるのは時間がかかりますし、怪我で入院なんてことになったら師匠が言う「マンホールの蓋を踏むんじゃねーっ」の発露です。



リスクを回避することは、とても大切なことです。
そういう大切なことをきちんと理解し覚えていられるのも、公園のような素晴らしいバンクーバーの街中で「マンホールの蓋を踏むんじゃねーっ」って叱られるという、突拍子もないことがあったからこそです。

でも、それからのボクは、マンホールの蓋を踏まないように、マンホールの蓋を避けてジグザクに歩いてしまい、ほかの人からヘンな目で見られているんじゃないかと思うんですよね。(笑)

(2011年10月1日 記)


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By;Osamu Hasegawa